2009年12月24日木曜日

新しい歯科

考えてみると、私が大学院を修了してから、もう23年。大学出て歯科医師免許を拝領してからは、27年もの期間が経過した。四半世紀以上が経過したことになる。

この間の歯科の進歩は著しく、大学で勉強した内容だけでは、現在の歯科医療の多くがカバーできない。もちろん現役の歯科医師として活躍しているみなさんは、日進月歩の最新技術もキャッチアップはしているだろうと思うが、すこしづつ変わってきたものでも、年月が経過すれば大きな違いになってくる。

より良い治療計画を立案するためにも、これらの「新しい歯科」を俯瞰的に見てみる必要があるのではないかと思う。

さて、以下に列挙するような項目が、一般臨床家である私にとっての気になる「革新技術」だ。

1.ジルコニアセラミックによる歯冠修復
2.インプラントのカジュアル化、適用範囲の拡大
3.ファイバーコア
4.みえない義歯
5.ホワイトニングなど、審美的目的の歯科
6.PMTCなどの定期的メンテナンスによる予防
7.古典的歯科材料や消毒剤の再評価
8.治療中心から予防中心の歯科医療
9.歯周炎の治療成績の向上
10.歯周内科療法
11.マグネットアタッチメント
12.光重合レジンの高性能化
13.歯科用接着剤の高性能化と適用範囲の拡大
14.全身疾患との関連性のより深い知見
15.嚥下障害や睡眠時呼吸障害の治療
16.顎関節症治療
17.院内管理のデジタル化
18.CTスキャンによる立体画像診断
19.X線写真やマクロ写真のデジタル化
20.顕微鏡による治療の精緻化
21.矯正の治療へコンピュータによる誘導の導入、またフォースシステムの改革
22.矯正の改革によるカジュアル化

以上思いつくままに列挙したので分野などはバラバラだが、これらの要素は一つだけでも伝統的歯科医療のスタイルを大きく変えてしまう可能性がある。だがこれら全てを適用すると、全く別のスタイルが可能になる。こういった歯科医療は歯科医院の仕事量は多くなるけれども患者さんにとっても非常に高いレベルで快適さを提供できるはずだ。

次回以降もう少し詳細を眺めてみようと思う。

(文:窪田 敏之)

2009年12月7日月曜日

感染コントロール

感染コントロールとは治療の時に病原体の害を防止する方法だ。古くはハンガリー出身の産科医、ゼンメルワイスが1847年に発表した「産褥熱を減少させる手洗い法」に端を発する。当時はまだ「コッホの原則」(1876年)が発表されるよりも30年も前で「病原体」あるいは「細菌」の概念が確立されていなかった。とはいうものの、当時先進的多くの臨床家が、接触により移るなんらかの「毒」(これは病原菌の事だが)が存在し、これを防ぐ方法があるようだ、という事を感じ取っていたようである。ナイチンゲールなどの著名な臨床家も「感染」を防止する方法についての考察を残している。

この頃、ウィルヒョウという立派な医師がいたのだが、彼はこのゼンメルワイスの考え方を批判した。これだけ見ると狭量でダメな人物のように見えるが、Wikiによれば、彼は当時実績もあったし、それに都市の公衆衛生という意味では高い意識を持っていたのである。「先入観」とはかくも恐ろしきもので、ウィルヒョウのような立派な人物もこれに侵され、間違った判断をし、後世の人々の間で名声を落とす事になってしまったのだ。

英国の外科医であったリスター先生も、常に患者の事を考えており、なんとか手術後の悪化を防げないかと問題意識を持っていたところ、当時このゼンメルワイス氏の論文を見て、自分なりに消毒液を考案して手指消毒を始めた。すると、非常に術後の成績が向上したのだ。リスターはどうも人格者だったらしく、非常に尊敬されていた。このため後年彼の消毒剤の処方を参考に開発された洗口剤「リステリン」は彼の名前にあやかって命名された。

今日では歯科医院の感染コントロールのレベルも向上し、歯科医師が手袋をしたり、多くの器材を高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)で滅菌したりする事は一般的になってきた。

しかしながら、当院が手袋を始めたのは20年も前の事で、当時はやや奇異な目で見られたのも事実である。というのも当時はまだ大学病院でさえ、歯科は素手で治療をしていたからである。だが、学校で習った細菌学や病理学の知識を元に普通に考えれば、手袋をしなければ自分も患者さんも守れないのは明白だった。そこで私は開業早々使い捨て手袋を使い始めたが、当時手術用手袋は高価で、扱っている業者も少なく苦労したものだ。そこで、自分で中国から手術用手袋を輸入したのだが、大量でなければ売ってくれず、当時の価格で$4000注文したところ、なんとコンテナに半分もの大量の手袋が到着し、院長室が全て手袋で埋め尽くされてしまった。今では笑い話である訳だが、当時の価格差は大きく輸入品の価格は市販品の1/20程度だったので、安心して使い捨てができた。

現在窪田歯科で使用しているメソッドは以下のようなものだ。

1.一般器具 流水で洗い流し、121℃ 2気圧 15分のスケジュールで高圧蒸気滅菌を行う。
2.嗽用コップ、エプロン、ヘッドカバー ディスポ製品を使用。
3.超音波・清拭・洗浄などは行うが、原則的に全ての器材をオートクレーブし、オートクレーブできない器材はできるだけ使用しないか、あるいはディスポーザブルを使用する。
4.医師の手指 ディスポ式のゴムまたはポリエステル製手袋を使用する。
5.印象の消毒 補綴物やインレー等を製作する場合、1%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬して消毒した後石膏を注型する。1%溶液は印象材の寒天+アルジネートとほぼ等張であって寸法の狂いが無いように調製されている。

これらのメソッドは子供医療センターの池田 正一先生が翻訳されている米国CDCの「歯科臨床における院内感染予防ガイドライン-2003」でまとめれた方式にほぼ準拠している。

現在窪田歯科ではインプラント手術の増加に伴う外科器具の消毒滅菌が増えており、さらなるに感染コントロール方式の強化を考えている。これは非常に希な疾患だけれども通常のオートクレーブでは滅菌しきれないと言われているCJD(クロイツフェルド・ヤコブ病)の病原体プリオンを防ぐための方法だ。

プリオンを研究されている先生方の文書などを参考にすると、高温のドデシル硫酸ナトリウム溶液(中性洗剤の濃いもの)に浸漬する方法と水酸化ナトリウム溶液に浸漬する方法がCJDの感染性を失わせる有効な方法であることが判る。この他にも次亜塩素酸塩溶液(ヒポクロ)も有効なようだが、インプラント器材に多用されている医療用グレードのステンレスを腐蝕するので、向かない。

吉田製薬株式会社には感染予防を特集したホームページがあって見やすく秀逸だが、この中にプリオン対策が載っている。

しかしながら、歯科医院の臨床においては器具が小さいし、高温の湯を常時用意するのは結構大変だ。また作用機序を考えると、ドデシル硫酸ナトリウムによる病原性蛋白質の構造変化による失活よりも水酸化ナトリウムによるペプチド結合の加水分解による破壊のほうが確実に利きそうだ。一応インプラント器具の医療グレードステンレスは2規定水酸化ナトリウムには耐蝕性があるようだ。だが、この水溶液は刺激性・びらん性・組織溶解性が強く、眼に飛沫がはねたりすると失明する虞もあるので、取り扱いにはくれぐれも注意されたい。

様々な方法から、歯科の臨床に適していると思われる方式は以下のようになる。

1.2規定水酸化ナトリウム溶液1リットルを用意しておく。(80gの水酸化ナトリウムを水1リットルに溶解する)
2.組織残渣を洗い流し、水洗いを終了した物品を1時間この液体に浸漬する。
3.次に再びすすぎ洗いをして水酸化ナトリウムを洗い落とす。
4.オートクレーブへ進む。

現在このメソッドは当院で実験中で、問題が無ければ、観血処置を行った器具は全てこの方式での処理に移行しようと思っている。

(文:窪田 敏之)

2009年11月28日土曜日

ジルコニアとグラスファイバーのハイブリッド型ファイバーポストデビュー(白水貿易)

グラスファイバーポストについて別稿で書いたが、当然ながらポストの材料とそのポストと歯の隙間を埋めるコンポジットレジン、さらにはコンポジットと歯質・グラスファイバーとコンポジットの接着性を担保する接着剤の性能、と全ての要素が重要であって、これらの要素が高性能化するとシステム全体の性能も向上するはずだ。

さてファイバーはファイバーコアシステムの最も重要な要素で、概ね弾性率は象牙質に近いか、若干大きめ、曲げ強さは大きいほど良い。そうなると当然ながら単純なガラスのファイバーよりもっと高強度の材質があれば、そのほうが良いのだ。

先日、東京デンタルショーへ見に行ったところ、白水貿易さんが発売開始したジルコニアとガラスファイバーをハイブリッドにした「インテグラ ファイバー ポスト」という製品があった。ジルコニアは高強度で有名なのでこの細い棒やファイバーと合わせたら高強度が期待できるのだろうか?もしそうなら嬉しい。カタログ値によれば軸上の弾性係数が52GPa、曲げ強度は1650Mpa、せん断強度が64MPaという事だ。(できれば曲げ弾性係数も測定して欲しかったかな)そしてグラスファイバー表面にはシラン化処理がしてあるようだ。しかしジルコニアの混ぜ方がいまひとつカタログからでは判らない。ジルコニアをガラス化してファイバーにするのは難しそうだが。

現在当院で使用しているのはトクヤマデンタル製のファイバーポストだ。またつい先日まではサンメディカル製を使用していた。他の製品に関しても追々強度などを調べてみようと思う。

(文:窪田 敏之)

2009年11月18日水曜日

上海デンタルショー (その2)

上海デンタルショーは凄い熱気だったわけだが、こういう熱気をもった雰囲気を作り出す事に成功しているのだから、中国の経済系の指導部の力はたいしたものだ。

日本はこういった状況から学ばなくてはなるまい。歯科技工所も多数設立されている。人数が巨大で30人ー50人などというのはアタリマエ(日本では最大級のサイズだろう)

大きいところだと2000人!規模の技工所が数軒あり、事務所の写真を見ると、まるで大規模の工場か大学のような大きさ。普通の歯科技工専門学校が4-5軒スッポリ吸収されてしまうサイズだ。

これで世界に技工物を提供している。技術レベルも日本の平均と比較して決して低くはない。むしろ規模のメリットを生かし、エリートクラスを養成し、特別チームは世界のトップクラスの技術を持っている。見えない義歯バルプラストや、矯正用のテンプレートは言うに及ばず、日本でもまだ始まったばかりのジルコニアを殆どの技工所で作成しているのには驚いた。これでは日本の技工所は全く太刀打ちができない。それこそ巡航ミサイルに竹槍で立ち向かうようなものだ。

ここまで日本の歯科を荒廃させ、国民の口腔衛生を先進国最低のレベルにしてしまい、国際競争力も奪ってしまった政治と厚生官僚、それに日本歯科医師会の歴代執行部の罪は重い。

それに今回驚き、嬉しかったと供に心が重くなる出来事があったのだ。それは中国の「品質」である。中国は日本とは異なる遣り方で品質を追求しており、最近の中国製品の品質は急速に向上している。たぶん、近日中に日本に追いつくだろう。私は中国に古い友人もおり、中国の発展を見てきたので、ついにここまで来たのか、という嬉しさがある反面、「中国品質」等と嘯いて油断をしている我が国のていたらくを見ると心配でならない。日中間の良好な関係は協力しあいながら、また良きライバルとして競争もする、ということで一方が強すぎるのは良くないのだ。

幸い、今ならまだ為替の違いがあるので盛り返す事はできると思う。頑張らなくてはならない。

(文:窪田 敏之)

2009年11月2日月曜日

上海デンタルショー(Dentch China 2009)(その1)

10月27日から30日まで上海のデンタルショーを訪問してきた。中国の歯科事情は夕暮れ色の日本とはまったく異なり、非常に熱気があり日の出の勢いだ。日本のデンタルショーだと客の数も少なく、展示も綺麗になっており、時たま興味を持った先生が尋ねると説明員が対応する、といった感じだ。ところが上海のデンタルショーは大混雑で、まるで通勤ラッシュのような状態だ。

会場も巨大で、全部で3フロアを使い切っている。一階は概ね国際的企業や、大手企業が巨大な美しいブースを出展している。これは日本と同じだ。ところが二階三階では中国の歯科器材メーカーや中小ディーラーがブースを構えており、ここでは展示即売を行っている。雰囲気は展示会というよりは市場、それも年末のアメ横のような感じになっている。

客も世界各国から来ていて、中東系、インド系、オセアニア系、ヨーロッパ系、日本人、韓国人。言葉も中国語だけでも普通話以外の言葉もあるし、スペイン語、ロシア語、英語、韓国語、ドイツ語、日本語・・・・さまざまな言葉が入り乱れて飛び交う非日常の空間だ。共通言語は中国語か英語。こうなると「通商言語」としての英語は威力を発揮する。

各国の人々は人民元の札束を支払いながらダンボール箱単位で歯科器材を買い付けている。帰りは数人掛りでダンボール箱を手押し車に載せて会場から運び出して、配送の手配を行っている。二日目の午後になると、売り切れ御礼のお店が続出。会期三日目を残して早々とブースを閉じてしまう会社、あまりの忙しさに疲れて居眠りする社員・・・・・・・・いやはや。

中国のこの熱気は本当に凄い。今や「世界の工場」となった中国の片鱗を垣間見たような気がした。4月には韓国のソウルデンタルショーを訪問したが、その時にも熱気は感じたが、中国はさらに熱かった。

(文:窪田 敏之)

2009年10月21日水曜日

ジルコニアセラミック

ジルコニアセラミックによる歯冠修復は非常に審美性が良い。おそらく現在の歯科医療技術の最高峰であると考えられる。ジルコニアに多少酸化イットリウム(イットリア)を含んでいるものが加圧による結晶変態を起こすことによる耐衝撃性、耐久性を大きく向上させている。

ちなみにその強度であるが、メーカーにもよるけれども曲げ強さで最高では1000MPaを超える。並みのポーセレンが300MPa弱、歯科用の金属でさえ800MPa程度しか行かないのであるから、この材料の強度は驚異的だ。

これならばロングスパンのブリッジを製作しても全く問題はない。ジルコニアの最も優れているのはその色調だ。数年前まではジルコニアはその屈折率の高さを反映して不透明で真っ白だった。もちろん真っ白でも銀色や金色よりは口腔内では遥かに美しい。しかし最近の製品はさらに改良を加え、歯の自然な色になるように色調を合わせてあり、さらに微細なジルコニア結晶を焼結することによって自然な透明度もある程度獲得している。

歯科の臨床でその他の検討すべき点としては接着性がある。ジルコニアは長石系やアルミナス系と比較して接着性モノマーの効きが良く、接着力が高く、さらに経時変化による接着力の低下も少ないようだ。(医歯薬出版 補綴臨床 2008年)これもまた補綴物の強度のアップにつながる。

最後にダメ押しでもう一つ優れた点がある。これは熱伝導率が低く、有髄歯に使用した場合でも知覚過敏が起きにくいのだ。

このようにさまざまな面で圧倒的に優れており、現時点では「究極の歯冠補綴材料」と呼んでも差し支えなかろう。また、これよりも優れた材料は当分の間出てこないのではないかと思う。9歯を超えるような長大なブリッジ以外にはもはやメタルボンドの技術生命は終わりに近づいていると考えている。長大ブリッジもミリングマシンの改良にともなってカバーされるようになるとすると、本当に近日中にメタルボンドは過去の技術になってしまうだろう。

(文:窪田 敏之)

2009年10月16日金曜日

磁石で義歯を補強(マグフィット その1)

磁石を使って取れやすい義歯を取れにくくしようというアイデアは昔からあったが、最近の製品と術式は改良されており、使い易くなっている。

もともと支台歯がある場合にも一定の効果はあり、活用もされていた。しかし、偶々歯冠部が失われた歯に対して磁力吸着点を設定していたので、あまりケースは多くはなかったのだと思う。歯冠部が残っている場合には、在来技術であるクラスプで充分な性能を出せる。

しかし、昨今インプラントのケースが増えてきた。インプラントの場合にはアバットメント装着の前にはどっちみち歯根部しか存在しないのであるから、一気に適用範囲が増える。

実際、顎堤の高さが充分でなく、上の義歯が外れやすくて不便、とか、舌感が悪く話しにくいとか老け込んだ気分になるといった症例では絶大なる威力を発揮する。

義歯は押す力には非常に強いが引っ張る力には弱い。このマグネットアタッチメントは引っ張り力を補強するものだ。

まだマグネットアタッチメントがそれほど普及していなかった時代にマグフィットという磁性アタッチメントを開発し、それから今日のインプラント時代まで、淡々と製品改良を続けてこられたメーカーの愛知製鋼株式会社様には敬意を表したいと思う。

2009年10月11日日曜日

インプラント

インプラントはブローネンマルク先生がオッセオインテグレーション型(骨結合型)を始めてからたぶん40年から50年ぐらい経ったのだろう。ここ10年ぐらいは歯牙の欠損補綴の強力な一手として認知され始めた。

大きな理由の一つはコーンビーム型CTスキャンの普及だろう。歯科用CTスキャンに関しては別途書こうと思うが、三次元で実距離を計測できるようになったメリットは非常に大きい。その昔難しかったのは殆どが歯槽骨や顎骨の形の複雑さに起因していると思われるので、CTスキャンで実際の形状が正確に判るようになるとインプラントはずいぶん簡単な治療という事になってゆくのだろう。

実際、CTのナビゲーション付きだと、インプラントは模型飛行機の製作よりも手技が簡単と言っては言いすぎだろうか?

当院ではスイスのストローマン社製のITIインプラントと日本製のAQBインプラントを患者さんの症例によって適宜使い分けている。それぞれに特徴があるので、両方あると重宝する。

(文:窪田 敏之)

2009年10月10日土曜日

ファイバー・コア

無髄歯の修復前にコアを設定する訳だが、私としては現在このファイバーコアが最も優れていると思う。しかも数年前までの在来技術であるメタルコアと比較すると圧倒的に優れている。窪田歯科で使用しているのはサンメディカル社の i-TFC システムと トクヤマデンタルの ファイバーコアシステムだ。

一番大きな利点は「機械的強度」だ。メタルコアと比較すると繰り返し応力破壊への耐性は30倍にもなる。このような大きな差が出るのはなぜだろう?まず一番重要なのはコアと歯牙の一体性である。ファイバーコアは接着剤が良く効くので歯牙と一体化しており、応力は分散される。また弾性率もファイバーと歯牙は近く、やはり応力分散が起こる。一方メタルコアは剛性が高いので、自分自身はあまり壊れないけれども歯牙に余分な負担がかかってしまい、破折事故につながりやすい。さらにメタルには良い接着剤が少なく、応力分散も異方性が高く、あまり期待できない。このような様々な要素によって、こんなにも強度の差が出てしまうのだ。

また審美性も重要だ。色調が象牙色の半透明なので、人体とマッチして自然観があり美しい。さらに口腔内法の場合にはアンダーカットのある症例にも対応可能となるので、症例の適用範囲が最も広い技術で、変な歯でも効果が出しやすい。

前歯部等でジルコニアの冠による修復と組み合わせると、非常に美しくまるで本物の歯のようだ。うっかりすると本職の歯科医師でさえ「健全」等と判断しかねないほどである。最終補綴物が入った後患者さんに鏡を見てもらうと、虫歯だった歯が真っ白の天然の歯のようになっており、患者さんはビックリして目がまんまるになってしまう。その後嬉しそうににっこりするのだ。

歯医者の仕事はタフだけれども、この笑顔を見られるのであれば、やる価値がある。もちろん治療費をいただかなければ、歯科医院は続かないのだが、患者さんが喜んでくれるというのが、歯科医師にとっての最も大きな報酬であり動機にもなっているのだ。

なかなか補綴の臨床も面白くなってきた。

(文:窪田 敏之)

2009年10月9日金曜日

コンポジットレジン

本日、SHOFUの営業マンが来て新しいレジンを紹介して行った。

「ビューティフル フロー プラス F00」という製品だ。このF00が重要らしく、以前の製品でF02とかF10というのがあるらしい。

この製品の特徴はフローでも流れない事で、シリンジから直接か洞に充填しても流れない。また咬頭の形成などにも流れないので向くようだ。曲げ弾性率は10GPa 曲げ強さは 126MPa とADAの「臼歯部用コンポジットレジンに必要な最低強度 80MPa」の基準値を余裕で超えているので、奥歯に詰めることもできる。

強度が高めなのと、「流れない」という操作性の良さという特徴があるので、当院でも試しに使用してみることにした。美しい修復をするために通常の色調ではなく、ホワイトニングが進んだ患者さんの歯の色にも合わせられるようにBW(ブリーチングホワイト)、およびエナメル質の半透明性を表現できるInc(インサイザル)、あとは最近増加中のA2O(ヴィタ・シェードA2のオペークタイプ。他社ではこれはAO2という色調名称のこともある)の3本を注文してみた。さて使ってみるのが楽しみだ。

(文:窪田 敏之)

ご挨拶

歯科医療に携わって25年以上。その間に得た知見を書き留めておこうと思います。また最新の歯科治療についての文献的研究などもここで行いたいと思います。

このブログは歯科医療関係者、および医療関係者の専用ブログにしようと思います。もちろん専門外の方も歓迎しますが、基本的に医療関係者を対象としている事から、専門用語等を使用しますし、表現方法なども一般の方々には少々判り難い点もあるかもしれません。しかし、質問は歓迎いたしますのでよろしくお願い致します。

(文:窪田 敏之)