2010年1月12日火曜日

ブラッシング指導プロトコルのアップグレードについて

当院のブラッシング指導のプロトコルは私が経験的に「良い」と思った方式を患者さんに指導してきた訳だが、最近「新しい歯科」を勉強しつつ若干思うところあり、変更しようかと思っている。

これまでの指導法はこんな感じだ。

1.一日一回は完璧に磨いてください。
2.歯ブラシを中心に、歯間ブラシとフロスを補助に使用してください。
3.歯磨き剤はできるだけ使わないように。
4.抗菌性嗽剤を使用してください。
5.プラークスコアは20%以下になるようにしましょう。
6.歯と歯茎の境目を万遍なく全部触るようにしましょう。
7.ブラッシング方法はスクラッビング法を中心。患者さんによってはバス法もOK。
8.既に他院で教わってスティルマン法・チャーターズ法・縦磨きなどを習得している人は無理に方法を変えない。
9.電動歯ブラシ、音波歯ブラシ、超音波歯ブラシはあまり推奨しない。

というものだ。これは今までの歯周病管理の考え方、および楔上欠損の予防を念頭においた方式だ。

ところが最近PMTCや、歯周内科療法、バイオフィルムの問題、最近の縁下歯石の対処法などを見ると、これらのプロトコルは若干「最適」には達していないのではないかと思い始めた。

まだ考え方は充分に纏まってはいないが、大きく変わるのはこんなところだ。まず歯磨き剤。これは古い歯磨き剤には磨耗の問題があったのだ。歯磨き剤には研磨剤が必ず含まれている。この研磨剤は毎日使用すると数年で歯頚部を磨耗して楔状に削ってしまう。しかも歯周病菌にもう蝕菌にも著効がなく、利害のバランスが悪かった。

ところが、昨今歯磨き剤もPMTCに使われる研磨剤などとして大きく進化し始めた。う蝕予防効果もあるし、研磨剤の硬さを適切にする(歯牙のセメント質よりも柔らかい物質を使用する)事によって歯牙表面を研磨して美麗にするだけではなく、口腔疾患の元凶の一つであるバイオフィルムの破壊にも有効のようだ。

また、歯磨き剤のような「機械的清掃」を効率的にするには手によるブラッシングだけではなく、機械による適切な振動を加えてくれる歯ブラシのほうが良いのかもしれない。だがこの機械式歯ブラシは、どのような方式が優れているのかはもう少し調べないと良く判らない。

直感的にはあまり強くない超音波歯ブラシが良さそうだが。超音波があると実際にブラシが触れた場所より多少は遠くまで(数10ミクロンだろうけれども)清掃効果がありそうだし、キャビテーションないしは攪拌によって局所の酸素濃度を一時的に増して嫌気性菌を退治しやすくなるかもしれない。(だがこれらの仮説は検証はされてはいない)

ということで、新プロトコルは次のようになる。
1.一日一回は完璧に磨いてください。できるだけ一日三回磨いてください。
2.歯ブラシを中心に、歯間ブラシとフロスを補助に使用してください。
3.歯磨き剤は適切な製品を選択してください。
フッ素を含有する事(う蝕予防効果)・研磨剤が硬すぎない事(磨耗防止)・
研磨剤を含有する事(機械的清掃効果)
4.抗菌性嗽剤を使用してください。
こちらは歯を磨いた後補助的に使用すればOKです。
5.プラークスコアは20%以下になるようにしましょう。
6.歯と歯茎の境目を万遍なく全部触るようにしましょう。
7.ブラッシング方法はスクラッビング法を中心。患者さんによってはバス法もOK。
8.既に他院で教わってスティルマン法・チャーターズ法・縦磨きなどを習得している人は無理に方法を変えない。
9.電動歯ブラシ、音波歯ブラシ、超音波歯ブラシはあまり推奨しない。
適切な製品であれば手用歯ブラシの代わりに使用しても結構です。
-歯や歯茎を傷つけない事。電解作用を持たない事。

という事になる。小さな違いのように見えるかもしれないが、この変更は窪田歯科(私のクリニック)では20年以上実施されてきたプロトコルの大変更だ。PMTCで有名な内山 茂先生のご著書などを拝見するとPMTCで長期間管理されている患者さんの口腔疾患はかなり少なく、歯牙寿命も非常に長くなるという。

もちろん当院でもPMTCを導入しようと勉強中ではあるが、それに先立ちブラッシングもPMTC的な考え方を反映した方式に進化させようと考えている。こういう取り組みは直ちに効果が出るものではないが、5年後10年後の患者さんの口腔状態がさらに向上する事を期待している。また新プロトコルでは旧プロトコルよりもプラークだけではなくステインも落ちやすいので審美性にも優れると思う。

(文:窪田 敏之)

2010年1月5日火曜日

当院で使用しているインプラント、ITIとAQB、その他のインプラント

ちなみに当院では現在ITIとAQBを使用している。しかしながら、頻度はITIのほうが多い。というのもITIは歴史が古くパーツが充実しており、適用範囲が非常に広いからだ。一方AQBは限られた症例ながら、ワンピース一回法(即時加重)という手軽さが良いところだ。

実際、上顎にはなかなかAQBのワンピースを使う気持ちになれないが、下顎・遊離端ではない・骨密度が大きい場合には結構有効だろうと思う。

ところで、アンキロスという製品があるが、これはこれまでのブローネンマルクから始まった解剖学的形態のアナログ型のインプラントとは異なって、非解剖学的形状のインプラントだ。一般に出回っているエビデンスを当院独自の基準で評価してみようと思っているが、これまでのところ、なかなか筋の良さそうな製品という感じを受けており、進めてみようかなと思っている。

その他、インプラントは高いものを一本打つよりも廉価なものを二本打ったほうが、力学的にも危険分散の面でも有利と考えられるので、当然ながらインプラントシステムの価格も性能のうち、という事になる。最近は中国や韓国のメーカーが力をつけてきているので楽しみだが、本年の前半はアンキロスを調べてみようと思っている。

ところで、ジルコニアは通常補綴に使用されているが、これをインプラント体に使用することもできる。というのもジルコニアはチタンほどではないけれども、かなりの骨親和性があり、オッセオインテグレーションも可能なようだ。 実際、インプラントにも人工の歯周ができる訳で、その際には歯周病原因菌群のインプラント体への付着性が問題になる。すると鏡面チタンよりも鏡面ジルコニアのほうが歯周炎への耐性が良い可能性も無いとは言えない。その上最大の利点はやはり美しいという事だ。歯根の色調は金属光沢ではなく、自然の歯牙に近い白い色になる。スペインには既にセラルートという会社があり、同名のインプラント体を販売している。

エビデンスはまだ見つけていないのだが、天然歯よりもチタンのオッセオインテグレート型インプラント体のほうが歯周炎になりにくいような気がするのだが、どなたか文献をご存知ではないだろうか?



(文:窪田 敏之)

2010年1月4日月曜日

謹賀新年 2010

あけましておめでとうございます。

さて、昨年から始めたこのブログですが、本年の前半は主にインプラントと矯正に集中して検討してゆきたいと思います。ある患者さんが歯科疾患や先天的な形態などによって機能性・審美性とも大きな問題が生じていたとしても、最新の歯科の医療技術をもってすれば、かなりの程度快適な結果が得られるはずだ。

だが、昨今歯科医療の領域も広くなりすぎ、さらには専門化が進んで他領域でなにが起こっているのかが判りにくくなっているのも確かだ。さらに科学技術の進歩に伴って歯科医療の技術も急速に進化している。

しかし人体というものは有機的に全体の調和で成り立っているもので、特定領域だけ解決しても患者さんの生活の向上には繋がらない事もありうる。これからの歯科医師はもちろん何かの専門を持っている事は重要だが、それだけではなく歯科や隣接医科、全身状態との調和の中で最善の状態に持ってゆくにはどのようなテクニックを駆使すれば良いのかといった視野の広さもまた求められていると思う。

そんな訳で2010年第一弾は矯正とインプラントの関係を少し調べてみようと思う。

本年もよろしくお願い致します。

(文:窪田 敏之)