2018年4月30日月曜日

第18回国際NCT学会(台湾大学)での発表内容案「NCT時の歯科用ジルコニアの中性子吸収と放射化」

筆者は歯科用材料の中性子吸収と放射化について一貫して研究している。

今回は歯科補綴で最近シェアが増加中と考えられるジルコニアセラミックの放射化を計算によって評価した。

ジルコニアは酸化ジルコニウムZrO2を主体に、安定化のためのイットリア、不純物としてアルミナ、シリカ、酸化鉄、酸化ナトリウムなどが含まれる。

この他不純物としてジルコニウムの同族元素であるハフニウムを含むものがある。このハフニウムはジルコニウムと化学的な性質が酷似するため分離に手間がかかる。

今回の評価では、これら不純物のうちハフニウム177が熱中性子領域で372バーン、またハフニウム178も88.5バーンの捕捉による吸収量が大きく、僅かの不純物含有量で、中性子ビームに対して大きな吸収損失を起こし治療効果を減殺する危険がある事が判明した。

放射化については、ハフニウム179が中性子を捕捉して生成するハフニウム180が半減期42.3日、ベータ線の崩壊エネルギー1MeVとかなり強い放射能を局所で数か月に渡って放出するため、患者の被曝も医療担当者の被曝も無視できない。

対策としては、ジルコニア補綴物を照射前に除去する、除去不可能な場合には照射方向を留意する、中性子を吸収するシールドを設置する、等が考えられる。

(文:窪田 敏之)

2013年12月11日水曜日

BNCTにおける歯科領域のケア(その2)

まず始めに歯科の固定性ブリッジのうちPFM(Porcelain Fusued Metal)構造でコバルトクロム合金と長石系陶材を使用したものを検討する。

典型的なPFM用コバルトクロム合金として次の組成を仮定する。組成は重量パーセントである。

コバルト    60%
クロム     25%
モリブデン   5%
タングステン  5%
ガリウム    2%
珪素      1%
鉄        1%
マンガン    1%

また典型的なPFM用陶材料としてカルシウムのモル比率が25%の灰曹長石(oligoclase)を仮定する。化学組成は以下になる。またオペーク材として酸化チタンが5%使われていると仮定する。

長石 3(NaAlSi3O8)・1(CaAl2Si2O8)
酸化チタン TiO2

実際のクラウンブリッジは複雑な形状をしているのが、今回は簡略化して、これらの組成物質が均一な混合物として中性子ビームに照射されたものとして検討する。

Co(コバルト)は天然素材の100%が質量数59のCo59であり、これが中性子の照射によって

Co59+n→Co60(コバルト60) と変化する。 コバルト60は半減期が5.27年で比較的強い放射能を持つので評価が重要になる。

この一核種のみを考慮しても取り外し可能なコバルトクロム合金製有床義歯は照射時には取り外しておいたほうが良い。

熱中性子とコバルト59の反応確率は下図のとおり。(出典JENDL-4.0)



熱中性子のエネルギーを2.5x10^-2とすると、約30バーンであることが判る。即ちコバルト60はモル比率で3.3%以上含まれていると、殆どの熱中性子を吸収してしまう。

BNCTの標準プロトコルより、照射フルエンスは一平方センチメートルあたり毎秒10の9乗個。
照射時間は1時間(3600秒)

このため仮にこの補綴物の断面積が4平方センチだったとすると、吸収する中性子は100%なので10の9乗×3600×4個。つまり、1.44×10の13乗個のコバルト60原子が生成する。

この放射能をベクレルに換算してみると半減期5.27年は秒数にして1.66×10の8乗。

1.44×10の13乗÷1.66×10の8乗÷log2≒6.0×10の4乗。

つまり照射直後の放射能は約6万ベクレル。これで半減期約5年。局所的には自然放射能の100倍程度の放射能なので、これは無視しにくい。

その他、本来腫瘍に向かうべき中性子ビームを、このコバルトが殆ど吸収してしまい、効力が減弱する、あるいは後日この補綴物を除去した場合に環境に放射能が拡散する恐れがある、などの危険性が予見できる。

(続く)

(文:窪田敏之)

2013年12月10日火曜日

BNCTにおける歯科領域のケア -歯科材料と中性子ビーム (論文案1)

BNCTは他の治療法が奏功しない悪性腫瘍も攻略可能な強力な放射線治療である。中性子ビーム使用して腫瘍細胞内部で核分裂を惹起して腫瘍細胞を選択的に殺傷し、治癒させる。

中性子ビームには通常の放射線治療で使用されるガンマ線、X線とは異なった性質がいくつかある。一つには拡散の仕方が光であるガンマ線などとは異なることだ。並としての性質が強いガンマ線とは異なり、中性子線はパチンコ玉のような球状の重粒子の束なのでジャングルジムに蹴りこんだサッカーボールのようにあちこちに跳ね返る。

またもう一つの特徴は、最終的に周囲の物質の原子核に吸収され、物質転換を起こすという事だ。ガンマ線ではこういう反応は通常のエネルギー領域では起こらない。

本稿で取り上げるのは、中性子ビームの吸収に伴う物質転換だ。人体を構成する物質、炭素・窒素・酸素・塩素・水素・鉄・カルシウム、etc.に関してはこれらは調べられて評価もされている。しかし歯科領域では人体を構成する物質以外に補綴物やデンタルインプラント等があり、これらの評価は未だ行われていない。特に核変換が発生したときに変換後の各種が放射性だった場合には新規に放射能が発生することになり、これを「放射化」というが、発生する放射能の量によっては害が無視できない可能性もあり、定量的評価が必要である。

そこで本研究では、口腔内に長期で留置されるであろう歯科用補綴物の中性子ビームによる放射化の基礎分析を行い、BNCT施術前にこれらの装置を除去するべきかどうかのプロトコルを提案する。

患者の口腔内に留置されている補綴物は次のようなものがある。

1.可撤性

義歯 アクリル系、ポリカーボネート系、ナイロン系、水晶・アルミナフィラー
金合金・金銀パラジウム合金・コバルトクロム合金・ニッケルクロム合金・ステンレス
チタン

2.固定性

クラウンブリッジ

  金合金・銀合金・金銀パラジウム合金・ニッケルクロム合金
  コバルトクロム合金

  長石系陶材・リチウム系陶材・ジルコニア

  アクリル・水晶・アルミナ系強化プラスチック

インプラント

  純チタン・チタン合金・ジルコニア・コバルトクロム

3.半固定性

インプラント上部構造

このように非常に多岐に渡る。今回はこの中から固定性のコバルトクロム材料と長石系陶材によるPFM冠、金合金による単冠、および可撤性のコバルトクロム製総義歯、もっとも頻度の高いチタン合金製インプイラント材料に絞って分析を試みる。

ーつづく

2013年1月13日日曜日

IDS 2013 (国際デンタルショー) ケルンメッセ

http://www.koelnmesse.jp/ids/

ケルン国際デンタルショーはドイツのケルンで2年おきに開催される世界最大のデンタルショーだ。今年は3月12日(火)~3月16日(土)まで。

世界の歯科機器・歯科材料メーカーの最新製品のお披露目の場所としても知られている。特に昨今はデジタルデンティストリーと言えば良いのか、コンピュータで支援された歯科治療法が急速に発展しつつあり、関連製品が数多く出展されるだろう。

それにしても寂しいのはこういった超先進歯科技術はもう日本からは殆ど出ないという事だ。すべてヨーロッパ勢が中心で米国勢も。日本からはほんの少し。中国や韓国からは全くだ。

日本の歯科界は反省しなくてはなるまい。高度成長期、世界の水準に一瞬だけ並んだ日本の歯科医療技術はなぜこんなに遅れてしまったのだろうか?

オリンピックやノーベル賞ではないけれども、歯科医療先端技術なども「文化」の発展度を表しているようにも思える。日本人は「国際的には一流」を自負している人も多いのかもしれないけれども、歯科医療に関しては健康保険の運用法の問題もあり、残念ながら二流だ。日本人の口の中は汚く、先進諸国中最低だというのは日本通の外国人は良く知っているし、海外の歯科医師にしばしば指摘を受けて恥ずかしい思いをする。

歯科医師の先生方は各自奮起されたし。今のところ歯科医師会も厚生労働省も当てにはならない。制度上手足を縛られてはいるけれども、それでも工夫すれば多少はなんとかなるだろう。

良い歯科医療を供給すれば国民の健康レベルはアップするのだ。

さて私もIDSに参加して世界の先端レベルを見て少し刺激を受けてこようかな。幸い日本人は「追いつき、追い越せ」は得意だったようにも思えるし。

(文:窪田 敏之)

2011年11月30日水曜日

本日よりインプラント器材の滅菌方法を改良

今までは水洗後、通常のオートクレーブ滅菌のみを行っていた。ところが、このスケジュールでは非常に稀な疾患CJD(クロイツフェルド・ヤコブ病、通称ヤコブ病)あるいはバリアント型狂牛病の原因病原体であると言われているプリオンを完全に消滅させることはできない。(オートクレーブのみでも弱毒化するとは言われているが)

そこで、かねてから滅菌スケジュールの改善を図っていた。実際、CJDは非常に移りにくい疾患で歯科の手術から移る可能性は殆ど無いと考えられる。(脳外科以外では一般外科でもここまではやっていないようだ)けれども、より高度なレベルを目指すにはプリオンも制圧したい。

文献を参照すると、プリオンを不活性化するには熱した高濃度界面活性剤、高濃度次亜塩素酸、高濃度水酸化ナトリウムなどが都合が良いようだ。このうち高温高濃度界面活性剤はプリオン蛋白の構造変化だけなので、原理上再活性化(生き返る)懸念が払拭できない上に取り扱いが困難だ。また次亜塩素酸は日頃歯科臨床で大量に使用している殺菌剤なので簡単だけれども、先日トライしたところ、高価なインプラント用ドリルが錆びてしまい、悲しい気持ちになった。

そこで1N(1規定)水酸化ナトリウム溶液に使い古しのドリルでトライしたところ、どうやら医療用ステンレスは侵されないようだ。そこで本日AQBの手術用品一式に水酸化ナトリウム処理を試みた。今のところ錆びの発生も無く順調だ。

1N水酸化ナトリウムの作り方は次の通り。精製水900ml程度をビーカーに用意。水酸化ナトリウム40g(1モル)を計量する。水酸化ナトリウムは吸湿するので直ちにビーカーの中の水にこれを静かに加え、攪拌し、溶解する。最後に精製水を約100ml加えて全体を1リットルにして完成。これを逆に水酸化ナトリウムに水を加えると激しい溶解熱で撥ねたりして危険なので注意。1リットルの水に水酸化ナトリウム41g程度を加えても概ね1Nになるので実用上はこれでも問題ない。

水酸化ナトリウムは500gの試薬級が薬局などで買える。値段は500円以下。これで12リットル程度作れる。

出来上がった溶液のうち500ml程度をタッパーに入れる。これに器具類をプラスチックの籠にいれて室温で一時間浸漬する。その後、水洗してオートクレーブにかける。この溶液は頻度にもよるが二週間から一ヶ月程度は持つと思われる。投入した有機物に含まれる塩や酸などによって効力が低下する。また空気中の二酸化炭素を吸収してやはり効力が低下する。

文献は調べていないけれどもほとんど全ての有機物を加水分解してしまう1N水酸化ナトリウムの滅菌能力は強烈でこの環境で生き延びる事のできる微生物はおそらく存在しないだろう。

浸漬後の水洗はかなり念入りにしないと、器具の可動部に水酸化ナトリウムが濃縮して固着したりするので注意。また目に撥ねると失明の危険がある。万一入ってしまった場合には大量の水で洗浄してホウ酸などの弱酸で中和し、ただちに眼科医を受診する。本当は水ではなく炭酸水などで洗浄すると、水酸化ナトリウムが中和され、より綺麗になると思われるが、こちらはまだ試していない。

(文:窪田敏之)


2011年11月24日木曜日

歯科医師・衛生士募集

当院では現在歯科医師を募集しています。条件は週に2回以上出社できる人です。フルタイムでもOKです。

また歯科衛生士を募集しています。こちらの条件は週に2回以上出社できる人。正社員枠もあります。年齢制限はありません。

当院に関して簡単に説明します。

横浜市南区井土ヶ谷(最寄り駅京浜急行井土ヶ谷駅より徒歩2分)

1.設立 昭和62年5月
2.組織 医療法人社団
3.設備 ユニット 6台、デジタルレントゲン、デジタルパントモ
4.治療内容 
一般歯科、インプラント(ITI、AQB、その他)、ジルコニア、ホワイトニング、MTM、PMTC

インプラントはソケットリフト、チタンメッシュ法、オステオトームによる歯槽骨拡張術等も行います。

当院で数年勤務した後開業した先生は多数いらっしゃいますが、長期の勤務も可能です。開業の時には色々アドバイスさせていただきます。ご興味のある方は 045-712-7892 あるいは toshi@kubotashika.com までお願いいたします。




(文:窪田敏之)

2011年11月23日水曜日

スタッフブログを始めました

最近の若い女子達はコンピュータを紙のように使いこなす。22歳の若い新入社員が「スタッフブログをやりたいです」というので、もちろんOKした。

ここが窪田歯科スタッフブログだ。
http://ameblo.jp/kubota-shika-staff

手順としてはアメブロの下書機能を活用して、一度担当している職員に下書きをしてもらう。この内容を理事がチェックしてOKであれば公開する、といった感じで運用している。

彼女達より「近所のお店に食べに行ったときに取材してブログに載せるので取材費を出して欲しい」という要望があるので、月に二回程度ならOKと言っておいた。さてどんなブログになるだろうか?

(文:窪田敏之)

2011年7月26日火曜日

臼歯の歯冠修復の決定版 フルジルコニア(FZ冠)

最近フルジルコニア冠(FZ)が徐々に受け入れられてきたようだ。これは今までのジルコニアがメタルボンド冠のフレーム部分を金属からジルコニアに変更したのとは異なって、冠全体をジルコニアで製作する構造だ。

セラミック中史上最高の機械強度を誇るジルコニアセラミックなので、当然ながら口腔内でも頑丈極まりなく優れた臨床結果を出すであろうことは、ある程度予測がつく。

FZの利点は

1.頑強
2.生体毒性が無い
3.メタルフリー
4.技工料金が安い
5.高強度材料なので歯牙の削除量が少なく低侵襲
6.熱伝導率が低く知覚過敏を予防する
7.超高強度のため遊離端、犬歯誘導、ブラキサー等の難症例でも適応
8.同じくロングスパンブリッジも可能

とどちらかというと良い事尽くめだ。しかしFZといえども万能ではなく、利点=欠点にもなりうる。

フルジルコニアで懸念されるのは次のような点だ。

1.硬すぎて調整が大変 →カーボランダムポイントのほうが削れてしまう!
2.色調が白すぎて調和しない
3.対合歯を磨耗させるのでは?

解決法は次の通り。

1.デンタルソリューション社のZIMO Smartなど、被削性を向上させた製品を使用する。現在市場を見渡しても高被削性ジルコニアセラミックは今のところ世界でもデンタルソリューションのみが供給しているようだ。またデンタルソリューション社の技工士はハリウッドのような非常に競争の激しい地域からも受注しており、技工士の練度が非常に高い。このため技工物の精度も非常に高く調整は多くない。また無調整のセットが可能なことさえ多い。

2.これまで金属で修復していた臼歯部の修復を中心に取り組む。確かにFZはパール光沢で白すぎるなど、審美性は多少ポーセレンよりも劣る。しかしセラミックの白色は金属の灰銀色よりは全然マシだ。またジルコニア自体の内部ステインや外部ステインといった技術で前歯部でも患者さん目線では満足できる程度のものが製作できる。実際に当院でも2番3番には使用しはじめている。

3.デンタルソリューション社製FZ冠はジルコニア粉末の粒度をナノサイズまで細かくした専用グレードのジルコニアブロックを使用しており、対合歯磨耗性は高くない。また補綴学会でも表面を滑沢に仕上げたジルコニアの対合歯磨耗性は通常のポーセレンと変わらないという発表がある。

接着合着には補綴臨床誌の記事に発表されたジルコニアに対する接着データを参考にしてクラレ社製「クリヤフィルSA」を使用している。

当院では昨年より取り組んでいるが患者さんの満足度は非常に高いようで、FZ冠で治した人たちはみなニコニコしている。



右上顎3・5番支台歯、4番ポンティックがフルジルコニアによる審美ブリッジ 40代女性

(文:窪田敏之)

2011年7月15日金曜日

チタンメッシュ法による歯槽骨造成法(その1)

インプラントで患者さんの骨の量が不足する場合、メンブランを使用して骨の増殖方向と粘膜の増殖方向を制御することによって骨を造成するやり方(GBR法)はわりと一般的だ。

しかし、実際には非常に複雑な術式と数ヶ月の待ち時間、多大な費用をかけても復活する骨の量は精々2-4mmと、まぁやらないよりは良いけれども、全面的に頼れるかというとそうでもないような微妙な術式だ。

しかもメンブランは多くの場合バイオイナートで生体とは殆ど干渉しない。このため固定に難があり、スリップして膜が口腔内に露出する、など面倒なトラブルの種になりやすい。

メンブランによるGBR法の要点は治癒も増殖も速い上皮細胞(粘膜)の傷口への侵入を阻止し、成長の遅い骨組織が伸びてくるのを待つ、という意味合いでの「ティッシュ・コントロール」だ。ここで、最近チタンメッシュを活用した術式が台頭している。チタンメッシュをあたかもメンブランのようにして使うのだ。

チタンメッシュがメンブランと比較して大きく優れているのは三点。

1.耐圧性があるので、骨形成に必要な空洞を長期間保つことができる
2.生体親和性が良い
3.賦形性に優れ、加工が容易で手術も比較的簡単

先日のセミナーで見せてもらった症例では、これまでの常識では絶対に治せないと思われるケースでも続々インプラントを成功させ、ここまで劇的に回復するものかと驚かされたものだ。

この治療法、非常に先進的で日本ではもちろん、世界でもこなしているインプラント医はまだとても少ないと思われる。しかし今目の前で困っている患者さんを、チタンメッシュ法を使用すれば救えるかもしれない。

私もまだ実習をしただけなので、初めは身内からやってみようと思う。しかし実際術式はそれほど複雑でもなく簡単だと思う。それにつけてもこういう新術式を初めて思いつく医者は立派だと思う。以前よりも術式が簡単になり、その上治療効果がでるのだから素晴らしい。

(つづく 文:窪田敏之)

2011年1月11日火曜日

ユニーク!タイ王国バンコク市 ラワン先生の歯科診療所 訪問見学

12月の始めにインドのカルカッタに用事があって、途中ストップオーバーでバンコク市を訪問した。地元歯科医師会の先輩の松川圭美先生にご紹介いただいた、ラワン先生の診療所を訪問した。ラワン先生は鶴見大学の歯学部で学んだことがあり、松川先生のお知り合いだ。

ラワン先生は日本語も英語も非常に流暢に話される矯正歯科の専門医だ。ご友人で口腔外科を専門にしているサワニー先生と共同でBetty Smile Dental Clinic を開院された。彼女達の他にも歯科医師が何名か勤務している。

ラワン先生の歯科医院はバンコクの繁華街の中心に近いBTSのナショナル・スタジアム駅からコンコースで直接つながっている東急ショッピングセンターの中にある。これは日本の東急ストアが投資したものらしい。賑やかなバンコク市内の中でも特に人通りの多い場所だ。

さて、ラワン先生のベティスマイルクリニックだが、外観が大変美しく、歯科医院のようには全く見えない。むしろタイ古式マッサージの高級店のようだ。



ところがなんと驚いた事に、このクリニック内にマッサージ店が併設されている・・・というよりも本格的なマッサージ部門と歯科治療部門の双方が合体した施設なのだ。

これまで中国やインド、韓国などの歯科診療所を見学させていただいたけれども、こんなにユニークなクリニックは初めて。とてもびっくりした。

ところが良く見てみるとこれが大変うまく機能している。というのも歯科のサービスというのは快適か不快かと問われれば、最近はだいぶ不快感をコントロールできるようになったとはいえ、まだまだ痛みなどの不快感を伴う事が多い。一方、マッサージはリラックスできて気持ちが良いわけだから快感なわけだ。

患者さん(顧客)から見ると不快部分と快適部分が打ち消しあうので、意外に気楽にクリニックに来られることになる。また矯正なんかでは子供や孫達の施術の間、大人はマッサージをしてもらうというようなすごし方もでき、合理的だ。

このクリニックではラワン先生が矯正、サワニー先生がインプラントと口腔外科を主に担当している。ラワン先生は日本語も堪能なのでバンコク在住の日本人の方もこちらの歯科医院はオススメだと思う。レベルも非常に高く、日本のトップクラスの歯科医院と変わらない。

(写真向かって左から ラワン先生、サワニー先生、私)


なお、サワニー先生に聞くとインプラントはノーベルバイオケアとストローマンを使っているとの事だった。

ベティスマイルクリニックのマッサージ部のチーム編成は全員が専門教育を受けたマッサージ専門家でレベルも非常に高い。私も足マッサージをタイ古式でやってもらったが、大変快適だった。

こんな歯科クリニックだったら自分でも行きやすいな、などと思う。日本でも誰かやってみませんか?

(文:窪田敏之)

2010年9月11日土曜日

ジスロマック、名医の匙加減 -鶴見大学歯学部 五味一博准教授

先日、神奈川県保険医協会主催の勉強会に参加した。講師の先生は鶴見大学の歯周病の五味一博准教授だった。

以前からジスロマック(アジスロマイシン)にはなにか不可思議な作用があるような気がしてならなかったので、ジスロマックの歯周炎応用の第一人者として名高い五味先生の講演を楽しみに聞きにいった。

講義の内容は非常に興味深いものだった。

臨床医の先生でジスロマックを使用したことのある人であれば、もしかすると感じているのかもしれないが、ジスロマックは歯周組織の炎症に非常に効き目が強い。実際にデータで見る細菌に対する抑制力から直感的に予測されるよりも「非常」に強く効くのだ。しかも効き目が非常に長い。時にはたった一回の投与で歯周炎が大きく改善する事があるのだ。普通は抗菌剤は効き目がなくなったら、原因をコントロールできていない慢性炎症の症状は元へ戻ってしまうことが多いのに。

私も「なぜだろう?」と不思議に思っていたが友人達の話を聞いてみても「歯周組織への移行が良いのでは?」程度の意見。私もなんとなくそうなのかな、等と思っていた。

ところが五味先生の講義によると、ジスロマックには本来の抗菌作用以外にいくつか歯周炎の抑制に非常に有用な作用があるようだ。

まず、歯周ポケットへの移行だ。これは私も不勉強だったのだが、ジスロマックは炎症性白血球に吸収されやすい。この白血球は当然ながら慢性炎症である歯周炎を起こした歯周組織へ走化性で集まってゆく。つまり体全体に薄まっているジスロマックを炎症細胞がせっせと病巣へ濃縮してくれるのだ。むむ。これは凄いですね。

さらに化膿性炎症が起きて、好中球が破壊されるとする、すると細胞液から高濃度のジスロマックが溢れ出す訳だ。これではバクテリアは堪らない。激しく好中球と戦ってやっとの事で斃したと思ったらその体から毒が溢れ出して彼らを襲うのだ。

かくして、それほど抗菌力の強くないジスロマックなのだが、炎症層で悪さをしている細菌には容赦なく襲い掛かる最強のガーディアンになるのだ。

その他、コラーゲンの合成の抑制、コラーゲン分解酵素活性の亢進による歯肉の退縮でポケットも改善する。さらにはインターロイキンの抑制作用まであって歯周炎による骨破壊を抑制するというオマケまでついている。

これは非常に素晴らしい薬剤で、まさに急性歯周病を制圧するために生まれてきたような薬だ。先生の講義では、他の抗菌剤との比較、エビデンスによる治療として細菌種の同定をした後の最適な抗生物質の選択、(Pg菌にはジスロマックが良いが、Aa菌の場合にはクラビットのほうが強く効く等)抗菌性の継続期間と歯石除去・SRPの実施タイミングなど、先端で研究を行っている医師でなければ知りえない実践的、かつ非常に貴重な知見を惜しげもなく披露してくれた。

五味一博先生に感謝しつつ、明日からの当院の歯周病の患者さんの診療に役立てたいと思う。

(文:窪田 敏之)

2010年7月30日金曜日

医療法人化 医療法人 社団 窪田歯科

4月1日より、個人で経営していた「窪田歯科医院」が法人化して「医療法人 社団 窪田歯科」になった。医療法人にした目的は医療サービスの提供の高度化だ。

個人経営だと院長個人の才覚だけで医療サービスを提供してゆく事になる訳だけれども、これでは院長の身に何か問題が起こった場合には患者さんが放り出されてしまう。これでは如何にも無責任だし、サービスの質ももうひとつだ。

医療法人になった場合には医院の財産や組織と院長個人は分離されるので医療サービス提供が安定化される。(という建前になっている)

しかし今回私が実際に体験してみて医療法人の設立根拠法である「医療法」の形骸化と硬直化が著しく、この点でも医療の崩壊が進んでいることを実感する事になった。

医療法人は非常に歪んだ制度で、まともな法人とは言えないのではないかと思う。この制度は存在しないよりは多少はマシといった程度であって、本当に国民の健康を守り増進してゆくためにはかなりの制度改革を行わないと役に立たない。

医療法人の駄目なところは次のような点だ。

1.コーポレートガバナンスの仕組みが非常に脆弱。
→このため悪意のある人が居た場合、勘違いや運用のミスで簡単に乗っ取られてしまう。
2.財産権に関する哲学が歪んでいる。
→高度医療を提供するのに必要な資金調達はできない。
→お金を出してもなんの見返りもないので、単なる寄付行為になる。これは乞食根性だ。
3.健康保険制度に依存しすぎている。
→健康保険制度自体が非常に運営が悪くなっているので医療法人も駄目になる。
4.税法などの支援がまったく無い。
5.経営の自由が保障されていない。
→いちいち当局にお伺いを立てないと経営が進められない
→このため経営速度が遅くなる。
6.法の理念とは異なって院長個人の保証がなければ借入金も起こせない。

4.5.はセットでかなり問題だ。というのも責任と自由度は付随するべきなのに医療法人では自由を奪われているのに責任は減らない。これは規制のための規制に過ぎず、医療を推進しない。

医療法人を取り巻く環境はこのように全然駄目駄目なのだ。そこで日本の医療の発展は医師の善意によってのみ推進され、しかもその医師たちの力は刻一刻奪われいる。日本の医療はどうなるのだろうか?

医療法人のしくみは抜本的な改革が必要だ。

(文:窪田 敏之)  

2010年4月23日金曜日

広州の歯科医、エリック・チン(秦)先生とその診療所

広州市は長い歴史のある貿易港だ。中でも広州東駅周辺は外国企業などが多数進出している。この地域にある天河北路のホテルの11階にある

凯怡牙科诊所(Kai-yi, カイイと読むようです)

を尋ねた。

エリック先生はこの診療所で指導的立場で、現在はアドバイザーおよびパート医師として関わっている。この歯科医院はホテルビルのワンフロアを全て使っており、その広さは800平方メートルに及ぶ。

この歯科医院は日本で考える歯科医院とはかなり趣が異なっている。広くてゴージャズな待合室にはシャンデリアとソファーがあり、ドリンクサービスがある。診療ユニットは12台。ただし全て個室で、しかも個室はかなり広い。(おそらく20畳以上の広さ)個別に手洗いシンクを備えている。また相談室、技工室、材料保管室、消毒室、子供用待合室等がそれぞれ配備されている。診療室はGP(一般診療用)が多いが、何室かは矯正用、顕微鏡治療用、インプラント手術用などに専門化している。

治療内容はGP・インプラント・矯正・歯周炎・予防と全域にわたっている。感染コントロールレベルは非常に高く、術前にユニットの主要部をラップで被覆するといった徹底ぶり。

ジルコニアなども、もう普通にやっており、全体的に治療レベルの高さを感じた。

エリック先生との会話の中で、色々中国の歯科事情について理解が進んだ。まず中国と日本の大きな違いは、中国では医科と歯科の区別が無いという事だ。このため歯科を目指す人は医科大学の卒業後、口腔外科・歯科を勉強して歯科になるので、他の耳鼻科・脳外科・眼科・etc.と同じなのだ。

そんな訳なので「歯科衛生士」という職業も今のところ明確には存在していない。これは看護士の中で歯科に興味を持っている人が、歯科の勉強をして「歯科の看護士」になるので、日本で言うところの看護士さんと同じになる。

つまり一元主義だ。これに対して米国や日本は歯科と医科は別々のコースの二元主義だ。これの良し悪しに関しては別稿で論じようと思う。

この診療所の治療料金だが、治療は全て自費で日本と殆ど同じような費用だ。概ね半額から7割ぐらい。食品や公共交通の値段が10倍以上安いことを考えると、これはかなり高価だ。その上保険は適用されず、全て自費なので、それを考えると日本よりもかなり高額感もある。

中でも大臼歯のエンド等は一歯につき7万円と日本の7~10倍の値段だ。地元の先生によると日本から来たお客さん(患者さんの事)のエンドはレベルが低く、殆どやり直しになってしまう上に根尖部の損傷が激しく回復させるのに苦労させられると言う。先方の先生は「日本には健康保険があるので仕方がないんでしょうね」と気遣ってくれたが、全く恥ずかしくて参った。

中国は国全体の経済力はまだ日本には及ばないけれども、高所得層の経済力は既に日本と同等かあるいはそれ以上になっている事もうかがい知れる。

(文:窪田 敏之)

2010年4月19日月曜日

歯科のX線について

今回医療法人化するので、一旦個人の医院を廃業して、再び法人立の医院を届け出る事になる。この時にはX線装置の設置状況も届け出るので、少しX線のおさらいをしてみようとググッってみたら、良い文献があった。

日本大学歯学部 岩井一男先生の「歯科X線撮影における防護Q&A」だ。網羅的に歯科用X線について書かれていて判りやすい。

この中でデンタル一枚では下顎大臼歯が24マイクロシーベルトと大きい。これをデジタルレントゲンにすると機種によっては一桁アップして2.4マイクロシーベルトに低減するので患者さんにとってのメリットは大きいだろう。

最近一部に出てきたCdTe(キャドテル)という物質で作られたX線センサーは更に高感度のようで、これを使用するとX線防護室が不要のパントモを製造できる可能性もあるという。

(文:窪田 敏之)

2010年3月11日木曜日

広州のデンタルショー、 Dental South China 訪問

今月の29日から4月1日まで4日間の日程で中国広東省の広州市で「Dental South China」が開催されるので訪問してみようと思っている。去年は韓国のソウル市のデンタルショーと上海のデンタルショーに参加してみた。広州のデンタルショーは初めてなので楽しみだ。

広州には著名な歯科医師のエリック・チン先生がいる。この先生は東京医科歯科大学の同窓生で、現在広州市内で歯科クリニックを開業している。先生のオフィスを見学させてもらう約束をした。

この他、広州市は隣接する深セン市や仏山市などに医療機器の工場がたくさんあるので、何社か見学させてもらおうと思っている。深センには今友人の蓋軍氏が住んでいるので一緒に呑みたいところだけれども、ちょうど彼の会社が上場直前なのでたぶん多忙で無理だろうな。

広州はなかなか洗練された都会でちょっとシンガポールやバンコク風だ。物価は安いけれども市の中心部には摩天楼が立ち並び、ちょっと他の中国の町とは違っている。

「食は広州にあり」などという言葉もあり、食事も楽しめる。まだ開催まで3週間もあるので、みなさんもご訪問されてみては如何ですか?

(文:窪田 敏之)

2010年1月12日火曜日

ブラッシング指導プロトコルのアップグレードについて

当院のブラッシング指導のプロトコルは私が経験的に「良い」と思った方式を患者さんに指導してきた訳だが、最近「新しい歯科」を勉強しつつ若干思うところあり、変更しようかと思っている。

これまでの指導法はこんな感じだ。

1.一日一回は完璧に磨いてください。
2.歯ブラシを中心に、歯間ブラシとフロスを補助に使用してください。
3.歯磨き剤はできるだけ使わないように。
4.抗菌性嗽剤を使用してください。
5.プラークスコアは20%以下になるようにしましょう。
6.歯と歯茎の境目を万遍なく全部触るようにしましょう。
7.ブラッシング方法はスクラッビング法を中心。患者さんによってはバス法もOK。
8.既に他院で教わってスティルマン法・チャーターズ法・縦磨きなどを習得している人は無理に方法を変えない。
9.電動歯ブラシ、音波歯ブラシ、超音波歯ブラシはあまり推奨しない。

というものだ。これは今までの歯周病管理の考え方、および楔上欠損の予防を念頭においた方式だ。

ところが最近PMTCや、歯周内科療法、バイオフィルムの問題、最近の縁下歯石の対処法などを見ると、これらのプロトコルは若干「最適」には達していないのではないかと思い始めた。

まだ考え方は充分に纏まってはいないが、大きく変わるのはこんなところだ。まず歯磨き剤。これは古い歯磨き剤には磨耗の問題があったのだ。歯磨き剤には研磨剤が必ず含まれている。この研磨剤は毎日使用すると数年で歯頚部を磨耗して楔状に削ってしまう。しかも歯周病菌にもう蝕菌にも著効がなく、利害のバランスが悪かった。

ところが、昨今歯磨き剤もPMTCに使われる研磨剤などとして大きく進化し始めた。う蝕予防効果もあるし、研磨剤の硬さを適切にする(歯牙のセメント質よりも柔らかい物質を使用する)事によって歯牙表面を研磨して美麗にするだけではなく、口腔疾患の元凶の一つであるバイオフィルムの破壊にも有効のようだ。

また、歯磨き剤のような「機械的清掃」を効率的にするには手によるブラッシングだけではなく、機械による適切な振動を加えてくれる歯ブラシのほうが良いのかもしれない。だがこの機械式歯ブラシは、どのような方式が優れているのかはもう少し調べないと良く判らない。

直感的にはあまり強くない超音波歯ブラシが良さそうだが。超音波があると実際にブラシが触れた場所より多少は遠くまで(数10ミクロンだろうけれども)清掃効果がありそうだし、キャビテーションないしは攪拌によって局所の酸素濃度を一時的に増して嫌気性菌を退治しやすくなるかもしれない。(だがこれらの仮説は検証はされてはいない)

ということで、新プロトコルは次のようになる。
1.一日一回は完璧に磨いてください。できるだけ一日三回磨いてください。
2.歯ブラシを中心に、歯間ブラシとフロスを補助に使用してください。
3.歯磨き剤は適切な製品を選択してください。
フッ素を含有する事(う蝕予防効果)・研磨剤が硬すぎない事(磨耗防止)・
研磨剤を含有する事(機械的清掃効果)
4.抗菌性嗽剤を使用してください。
こちらは歯を磨いた後補助的に使用すればOKです。
5.プラークスコアは20%以下になるようにしましょう。
6.歯と歯茎の境目を万遍なく全部触るようにしましょう。
7.ブラッシング方法はスクラッビング法を中心。患者さんによってはバス法もOK。
8.既に他院で教わってスティルマン法・チャーターズ法・縦磨きなどを習得している人は無理に方法を変えない。
9.電動歯ブラシ、音波歯ブラシ、超音波歯ブラシはあまり推奨しない。
適切な製品であれば手用歯ブラシの代わりに使用しても結構です。
-歯や歯茎を傷つけない事。電解作用を持たない事。

という事になる。小さな違いのように見えるかもしれないが、この変更は窪田歯科(私のクリニック)では20年以上実施されてきたプロトコルの大変更だ。PMTCで有名な内山 茂先生のご著書などを拝見するとPMTCで長期間管理されている患者さんの口腔疾患はかなり少なく、歯牙寿命も非常に長くなるという。

もちろん当院でもPMTCを導入しようと勉強中ではあるが、それに先立ちブラッシングもPMTC的な考え方を反映した方式に進化させようと考えている。こういう取り組みは直ちに効果が出るものではないが、5年後10年後の患者さんの口腔状態がさらに向上する事を期待している。また新プロトコルでは旧プロトコルよりもプラークだけではなくステインも落ちやすいので審美性にも優れると思う。

(文:窪田 敏之)

2010年1月5日火曜日

当院で使用しているインプラント、ITIとAQB、その他のインプラント

ちなみに当院では現在ITIとAQBを使用している。しかしながら、頻度はITIのほうが多い。というのもITIは歴史が古くパーツが充実しており、適用範囲が非常に広いからだ。一方AQBは限られた症例ながら、ワンピース一回法(即時加重)という手軽さが良いところだ。

実際、上顎にはなかなかAQBのワンピースを使う気持ちになれないが、下顎・遊離端ではない・骨密度が大きい場合には結構有効だろうと思う。

ところで、アンキロスという製品があるが、これはこれまでのブローネンマルクから始まった解剖学的形態のアナログ型のインプラントとは異なって、非解剖学的形状のインプラントだ。一般に出回っているエビデンスを当院独自の基準で評価してみようと思っているが、これまでのところ、なかなか筋の良さそうな製品という感じを受けており、進めてみようかなと思っている。

その他、インプラントは高いものを一本打つよりも廉価なものを二本打ったほうが、力学的にも危険分散の面でも有利と考えられるので、当然ながらインプラントシステムの価格も性能のうち、という事になる。最近は中国や韓国のメーカーが力をつけてきているので楽しみだが、本年の前半はアンキロスを調べてみようと思っている。

ところで、ジルコニアは通常補綴に使用されているが、これをインプラント体に使用することもできる。というのもジルコニアはチタンほどではないけれども、かなりの骨親和性があり、オッセオインテグレーションも可能なようだ。 実際、インプラントにも人工の歯周ができる訳で、その際には歯周病原因菌群のインプラント体への付着性が問題になる。すると鏡面チタンよりも鏡面ジルコニアのほうが歯周炎への耐性が良い可能性も無いとは言えない。その上最大の利点はやはり美しいという事だ。歯根の色調は金属光沢ではなく、自然の歯牙に近い白い色になる。スペインには既にセラルートという会社があり、同名のインプラント体を販売している。

エビデンスはまだ見つけていないのだが、天然歯よりもチタンのオッセオインテグレート型インプラント体のほうが歯周炎になりにくいような気がするのだが、どなたか文献をご存知ではないだろうか?



(文:窪田 敏之)

2010年1月4日月曜日

謹賀新年 2010

あけましておめでとうございます。

さて、昨年から始めたこのブログですが、本年の前半は主にインプラントと矯正に集中して検討してゆきたいと思います。ある患者さんが歯科疾患や先天的な形態などによって機能性・審美性とも大きな問題が生じていたとしても、最新の歯科の医療技術をもってすれば、かなりの程度快適な結果が得られるはずだ。

だが、昨今歯科医療の領域も広くなりすぎ、さらには専門化が進んで他領域でなにが起こっているのかが判りにくくなっているのも確かだ。さらに科学技術の進歩に伴って歯科医療の技術も急速に進化している。

しかし人体というものは有機的に全体の調和で成り立っているもので、特定領域だけ解決しても患者さんの生活の向上には繋がらない事もありうる。これからの歯科医師はもちろん何かの専門を持っている事は重要だが、それだけではなく歯科や隣接医科、全身状態との調和の中で最善の状態に持ってゆくにはどのようなテクニックを駆使すれば良いのかといった視野の広さもまた求められていると思う。

そんな訳で2010年第一弾は矯正とインプラントの関係を少し調べてみようと思う。

本年もよろしくお願い致します。

(文:窪田 敏之)

2009年12月24日木曜日

新しい歯科

考えてみると、私が大学院を修了してから、もう23年。大学出て歯科医師免許を拝領してからは、27年もの期間が経過した。四半世紀以上が経過したことになる。

この間の歯科の進歩は著しく、大学で勉強した内容だけでは、現在の歯科医療の多くがカバーできない。もちろん現役の歯科医師として活躍しているみなさんは、日進月歩の最新技術もキャッチアップはしているだろうと思うが、すこしづつ変わってきたものでも、年月が経過すれば大きな違いになってくる。

より良い治療計画を立案するためにも、これらの「新しい歯科」を俯瞰的に見てみる必要があるのではないかと思う。

さて、以下に列挙するような項目が、一般臨床家である私にとっての気になる「革新技術」だ。

1.ジルコニアセラミックによる歯冠修復
2.インプラントのカジュアル化、適用範囲の拡大
3.ファイバーコア
4.みえない義歯
5.ホワイトニングなど、審美的目的の歯科
6.PMTCなどの定期的メンテナンスによる予防
7.古典的歯科材料や消毒剤の再評価
8.治療中心から予防中心の歯科医療
9.歯周炎の治療成績の向上
10.歯周内科療法
11.マグネットアタッチメント
12.光重合レジンの高性能化
13.歯科用接着剤の高性能化と適用範囲の拡大
14.全身疾患との関連性のより深い知見
15.嚥下障害や睡眠時呼吸障害の治療
16.顎関節症治療
17.院内管理のデジタル化
18.CTスキャンによる立体画像診断
19.X線写真やマクロ写真のデジタル化
20.顕微鏡による治療の精緻化
21.矯正の治療へコンピュータによる誘導の導入、またフォースシステムの改革
22.矯正の改革によるカジュアル化

以上思いつくままに列挙したので分野などはバラバラだが、これらの要素は一つだけでも伝統的歯科医療のスタイルを大きく変えてしまう可能性がある。だがこれら全てを適用すると、全く別のスタイルが可能になる。こういった歯科医療は歯科医院の仕事量は多くなるけれども患者さんにとっても非常に高いレベルで快適さを提供できるはずだ。

次回以降もう少し詳細を眺めてみようと思う。

(文:窪田 敏之)

2009年12月7日月曜日

感染コントロール

感染コントロールとは治療の時に病原体の害を防止する方法だ。古くはハンガリー出身の産科医、ゼンメルワイスが1847年に発表した「産褥熱を減少させる手洗い法」に端を発する。当時はまだ「コッホの原則」(1876年)が発表されるよりも30年も前で「病原体」あるいは「細菌」の概念が確立されていなかった。とはいうものの、当時先進的多くの臨床家が、接触により移るなんらかの「毒」(これは病原菌の事だが)が存在し、これを防ぐ方法があるようだ、という事を感じ取っていたようである。ナイチンゲールなどの著名な臨床家も「感染」を防止する方法についての考察を残している。

この頃、ウィルヒョウという立派な医師がいたのだが、彼はこのゼンメルワイスの考え方を批判した。これだけ見ると狭量でダメな人物のように見えるが、Wikiによれば、彼は当時実績もあったし、それに都市の公衆衛生という意味では高い意識を持っていたのである。「先入観」とはかくも恐ろしきもので、ウィルヒョウのような立派な人物もこれに侵され、間違った判断をし、後世の人々の間で名声を落とす事になってしまったのだ。

英国の外科医であったリスター先生も、常に患者の事を考えており、なんとか手術後の悪化を防げないかと問題意識を持っていたところ、当時このゼンメルワイス氏の論文を見て、自分なりに消毒液を考案して手指消毒を始めた。すると、非常に術後の成績が向上したのだ。リスターはどうも人格者だったらしく、非常に尊敬されていた。このため後年彼の消毒剤の処方を参考に開発された洗口剤「リステリン」は彼の名前にあやかって命名された。

今日では歯科医院の感染コントロールのレベルも向上し、歯科医師が手袋をしたり、多くの器材を高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)で滅菌したりする事は一般的になってきた。

しかしながら、当院が手袋を始めたのは20年も前の事で、当時はやや奇異な目で見られたのも事実である。というのも当時はまだ大学病院でさえ、歯科は素手で治療をしていたからである。だが、学校で習った細菌学や病理学の知識を元に普通に考えれば、手袋をしなければ自分も患者さんも守れないのは明白だった。そこで私は開業早々使い捨て手袋を使い始めたが、当時手術用手袋は高価で、扱っている業者も少なく苦労したものだ。そこで、自分で中国から手術用手袋を輸入したのだが、大量でなければ売ってくれず、当時の価格で$4000注文したところ、なんとコンテナに半分もの大量の手袋が到着し、院長室が全て手袋で埋め尽くされてしまった。今では笑い話である訳だが、当時の価格差は大きく輸入品の価格は市販品の1/20程度だったので、安心して使い捨てができた。

現在窪田歯科で使用しているメソッドは以下のようなものだ。

1.一般器具 流水で洗い流し、121℃ 2気圧 15分のスケジュールで高圧蒸気滅菌を行う。
2.嗽用コップ、エプロン、ヘッドカバー ディスポ製品を使用。
3.超音波・清拭・洗浄などは行うが、原則的に全ての器材をオートクレーブし、オートクレーブできない器材はできるだけ使用しないか、あるいはディスポーザブルを使用する。
4.医師の手指 ディスポ式のゴムまたはポリエステル製手袋を使用する。
5.印象の消毒 補綴物やインレー等を製作する場合、1%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬して消毒した後石膏を注型する。1%溶液は印象材の寒天+アルジネートとほぼ等張であって寸法の狂いが無いように調製されている。

これらのメソッドは子供医療センターの池田 正一先生が翻訳されている米国CDCの「歯科臨床における院内感染予防ガイドライン-2003」でまとめれた方式にほぼ準拠している。

現在窪田歯科ではインプラント手術の増加に伴う外科器具の消毒滅菌が増えており、さらなるに感染コントロール方式の強化を考えている。これは非常に希な疾患だけれども通常のオートクレーブでは滅菌しきれないと言われているCJD(クロイツフェルド・ヤコブ病)の病原体プリオンを防ぐための方法だ。

プリオンを研究されている先生方の文書などを参考にすると、高温のドデシル硫酸ナトリウム溶液(中性洗剤の濃いもの)に浸漬する方法と水酸化ナトリウム溶液に浸漬する方法がCJDの感染性を失わせる有効な方法であることが判る。この他にも次亜塩素酸塩溶液(ヒポクロ)も有効なようだが、インプラント器材に多用されている医療用グレードのステンレスを腐蝕するので、向かない。

吉田製薬株式会社には感染予防を特集したホームページがあって見やすく秀逸だが、この中にプリオン対策が載っている。

しかしながら、歯科医院の臨床においては器具が小さいし、高温の湯を常時用意するのは結構大変だ。また作用機序を考えると、ドデシル硫酸ナトリウムによる病原性蛋白質の構造変化による失活よりも水酸化ナトリウムによるペプチド結合の加水分解による破壊のほうが確実に利きそうだ。一応インプラント器具の医療グレードステンレスは2規定水酸化ナトリウムには耐蝕性があるようだ。だが、この水溶液は刺激性・びらん性・組織溶解性が強く、眼に飛沫がはねたりすると失明する虞もあるので、取り扱いにはくれぐれも注意されたい。

様々な方法から、歯科の臨床に適していると思われる方式は以下のようになる。

1.2規定水酸化ナトリウム溶液1リットルを用意しておく。(80gの水酸化ナトリウムを水1リットルに溶解する)
2.組織残渣を洗い流し、水洗いを終了した物品を1時間この液体に浸漬する。
3.次に再びすすぎ洗いをして水酸化ナトリウムを洗い落とす。
4.オートクレーブへ進む。

現在このメソッドは当院で実験中で、問題が無ければ、観血処置を行った器具は全てこの方式での処理に移行しようと思っている。

(文:窪田 敏之)