2013年12月11日水曜日

BNCTにおける歯科領域のケア(その2)

まず始めに歯科の固定性ブリッジのうちPFM(Porcelain Fusued Metal)構造でコバルトクロム合金と長石系陶材を使用したものを検討する。

典型的なPFM用コバルトクロム合金として次の組成を仮定する。組成は重量パーセントである。

コバルト    60%
クロム     25%
モリブデン   5%
タングステン  5%
ガリウム    2%
珪素      1%
鉄        1%
マンガン    1%

また典型的なPFM用陶材料としてカルシウムのモル比率が25%の灰曹長石(oligoclase)を仮定する。化学組成は以下になる。またオペーク材として酸化チタンが5%使われていると仮定する。

長石 3(NaAlSi3O8)・1(CaAl2Si2O8)
酸化チタン TiO2

実際のクラウンブリッジは複雑な形状をしているのが、今回は簡略化して、これらの組成物質が均一な混合物として中性子ビームに照射されたものとして検討する。

Co(コバルト)は天然素材の100%が質量数59のCo59であり、これが中性子の照射によって

Co59+n→Co60(コバルト60) と変化する。 コバルト60は半減期が5.27年で比較的強い放射能を持つので評価が重要になる。

この一核種のみを考慮しても取り外し可能なコバルトクロム合金製有床義歯は照射時には取り外しておいたほうが良い。

熱中性子とコバルト59の反応確率は下図のとおり。(出典JENDL-4.0)



熱中性子のエネルギーを2.5x10^-2とすると、約30バーンであることが判る。即ちコバルト60はモル比率で3.3%以上含まれていると、殆どの熱中性子を吸収してしまう。

BNCTの標準プロトコルより、照射フルエンスは一平方センチメートルあたり毎秒10の9乗個。
照射時間は1時間(3600秒)

このため仮にこの補綴物の断面積が4平方センチだったとすると、吸収する中性子は100%なので10の9乗×3600×4個。つまり、1.44×10の13乗個のコバルト60原子が生成する。

この放射能をベクレルに換算してみると半減期5.27年は秒数にして1.66×10の8乗。

1.44×10の13乗÷1.66×10の8乗÷log2≒6.0×10の4乗。

つまり照射直後の放射能は約6万ベクレル。これで半減期約5年。局所的には自然放射能の100倍程度の放射能なので、これは無視しにくい。

その他、本来腫瘍に向かうべき中性子ビームを、このコバルトが殆ど吸収してしまい、効力が減弱する、あるいは後日この補綴物を除去した場合に環境に放射能が拡散する恐れがある、などの危険性が予見できる。

(続く)

(文:窪田敏之)

2013年12月10日火曜日

BNCTにおける歯科領域のケア -歯科材料と中性子ビーム (論文案1)

BNCTは他の治療法が奏功しない悪性腫瘍も攻略可能な強力な放射線治療である。中性子ビーム使用して腫瘍細胞内部で核分裂を惹起して腫瘍細胞を選択的に殺傷し、治癒させる。

中性子ビームには通常の放射線治療で使用されるガンマ線、X線とは異なった性質がいくつかある。一つには拡散の仕方が光であるガンマ線などとは異なることだ。並としての性質が強いガンマ線とは異なり、中性子線はパチンコ玉のような球状の重粒子の束なのでジャングルジムに蹴りこんだサッカーボールのようにあちこちに跳ね返る。

またもう一つの特徴は、最終的に周囲の物質の原子核に吸収され、物質転換を起こすという事だ。ガンマ線ではこういう反応は通常のエネルギー領域では起こらない。

本稿で取り上げるのは、中性子ビームの吸収に伴う物質転換だ。人体を構成する物質、炭素・窒素・酸素・塩素・水素・鉄・カルシウム、etc.に関してはこれらは調べられて評価もされている。しかし歯科領域では人体を構成する物質以外に補綴物やデンタルインプラント等があり、これらの評価は未だ行われていない。特に核変換が発生したときに変換後の各種が放射性だった場合には新規に放射能が発生することになり、これを「放射化」というが、発生する放射能の量によっては害が無視できない可能性もあり、定量的評価が必要である。

そこで本研究では、口腔内に長期で留置されるであろう歯科用補綴物の中性子ビームによる放射化の基礎分析を行い、BNCT施術前にこれらの装置を除去するべきかどうかのプロトコルを提案する。

患者の口腔内に留置されている補綴物は次のようなものがある。

1.可撤性

義歯 アクリル系、ポリカーボネート系、ナイロン系、水晶・アルミナフィラー
金合金・金銀パラジウム合金・コバルトクロム合金・ニッケルクロム合金・ステンレス
チタン

2.固定性

クラウンブリッジ

  金合金・銀合金・金銀パラジウム合金・ニッケルクロム合金
  コバルトクロム合金

  長石系陶材・リチウム系陶材・ジルコニア

  アクリル・水晶・アルミナ系強化プラスチック

インプラント

  純チタン・チタン合金・ジルコニア・コバルトクロム

3.半固定性

インプラント上部構造

このように非常に多岐に渡る。今回はこの中から固定性のコバルトクロム材料と長石系陶材によるPFM冠、金合金による単冠、および可撤性のコバルトクロム製総義歯、もっとも頻度の高いチタン合金製インプイラント材料に絞って分析を試みる。

ーつづく

2013年1月13日日曜日

IDS 2013 (国際デンタルショー) ケルンメッセ

http://www.koelnmesse.jp/ids/

ケルン国際デンタルショーはドイツのケルンで2年おきに開催される世界最大のデンタルショーだ。今年は3月12日(火)~3月16日(土)まで。

世界の歯科機器・歯科材料メーカーの最新製品のお披露目の場所としても知られている。特に昨今はデジタルデンティストリーと言えば良いのか、コンピュータで支援された歯科治療法が急速に発展しつつあり、関連製品が数多く出展されるだろう。

それにしても寂しいのはこういった超先進歯科技術はもう日本からは殆ど出ないという事だ。すべてヨーロッパ勢が中心で米国勢も。日本からはほんの少し。中国や韓国からは全くだ。

日本の歯科界は反省しなくてはなるまい。高度成長期、世界の水準に一瞬だけ並んだ日本の歯科医療技術はなぜこんなに遅れてしまったのだろうか?

オリンピックやノーベル賞ではないけれども、歯科医療先端技術なども「文化」の発展度を表しているようにも思える。日本人は「国際的には一流」を自負している人も多いのかもしれないけれども、歯科医療に関しては健康保険の運用法の問題もあり、残念ながら二流だ。日本人の口の中は汚く、先進諸国中最低だというのは日本通の外国人は良く知っているし、海外の歯科医師にしばしば指摘を受けて恥ずかしい思いをする。

歯科医師の先生方は各自奮起されたし。今のところ歯科医師会も厚生労働省も当てにはならない。制度上手足を縛られてはいるけれども、それでも工夫すれば多少はなんとかなるだろう。

良い歯科医療を供給すれば国民の健康レベルはアップするのだ。

さて私もIDSに参加して世界の先端レベルを見て少し刺激を受けてこようかな。幸い日本人は「追いつき、追い越せ」は得意だったようにも思えるし。

(文:窪田 敏之)