2011年11月30日水曜日

本日よりインプラント器材の滅菌方法を改良

今までは水洗後、通常のオートクレーブ滅菌のみを行っていた。ところが、このスケジュールでは非常に稀な疾患CJD(クロイツフェルド・ヤコブ病、通称ヤコブ病)あるいはバリアント型狂牛病の原因病原体であると言われているプリオンを完全に消滅させることはできない。(オートクレーブのみでも弱毒化するとは言われているが)

そこで、かねてから滅菌スケジュールの改善を図っていた。実際、CJDは非常に移りにくい疾患で歯科の手術から移る可能性は殆ど無いと考えられる。(脳外科以外では一般外科でもここまではやっていないようだ)けれども、より高度なレベルを目指すにはプリオンも制圧したい。

文献を参照すると、プリオンを不活性化するには熱した高濃度界面活性剤、高濃度次亜塩素酸、高濃度水酸化ナトリウムなどが都合が良いようだ。このうち高温高濃度界面活性剤はプリオン蛋白の構造変化だけなので、原理上再活性化(生き返る)懸念が払拭できない上に取り扱いが困難だ。また次亜塩素酸は日頃歯科臨床で大量に使用している殺菌剤なので簡単だけれども、先日トライしたところ、高価なインプラント用ドリルが錆びてしまい、悲しい気持ちになった。

そこで1N(1規定)水酸化ナトリウム溶液に使い古しのドリルでトライしたところ、どうやら医療用ステンレスは侵されないようだ。そこで本日AQBの手術用品一式に水酸化ナトリウム処理を試みた。今のところ錆びの発生も無く順調だ。

1N水酸化ナトリウムの作り方は次の通り。精製水900ml程度をビーカーに用意。水酸化ナトリウム40g(1モル)を計量する。水酸化ナトリウムは吸湿するので直ちにビーカーの中の水にこれを静かに加え、攪拌し、溶解する。最後に精製水を約100ml加えて全体を1リットルにして完成。これを逆に水酸化ナトリウムに水を加えると激しい溶解熱で撥ねたりして危険なので注意。1リットルの水に水酸化ナトリウム41g程度を加えても概ね1Nになるので実用上はこれでも問題ない。

水酸化ナトリウムは500gの試薬級が薬局などで買える。値段は500円以下。これで12リットル程度作れる。

出来上がった溶液のうち500ml程度をタッパーに入れる。これに器具類をプラスチックの籠にいれて室温で一時間浸漬する。その後、水洗してオートクレーブにかける。この溶液は頻度にもよるが二週間から一ヶ月程度は持つと思われる。投入した有機物に含まれる塩や酸などによって効力が低下する。また空気中の二酸化炭素を吸収してやはり効力が低下する。

文献は調べていないけれどもほとんど全ての有機物を加水分解してしまう1N水酸化ナトリウムの滅菌能力は強烈でこの環境で生き延びる事のできる微生物はおそらく存在しないだろう。

浸漬後の水洗はかなり念入りにしないと、器具の可動部に水酸化ナトリウムが濃縮して固着したりするので注意。また目に撥ねると失明の危険がある。万一入ってしまった場合には大量の水で洗浄してホウ酸などの弱酸で中和し、ただちに眼科医を受診する。本当は水ではなく炭酸水などで洗浄すると、水酸化ナトリウムが中和され、より綺麗になると思われるが、こちらはまだ試していない。

(文:窪田敏之)


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